「内定辞退についてどう思う?」企業人事に聞いてみた

 

年が明け、内定を出し始める企業も多くなってきましたが、これからの時期、学生にとっても企業にとっても悩みの種となるのが「内定辞退」だと思います。今回は、学生の内定辞退を企業人事がどのように捉えているのか、また内定辞退は企業にとってなぜ問題なのかを知るべく、とある事業会社の採用担当者である林さん(仮名)にインタビューしてきました。

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事業を創りたいとの思いからコンサルを辞退し事業会社へ

-林さん、今日はよろしくお願いします。まず、林さんの学生時代や社会人としての経歴について教えてください。

 

:はい。

 

もともと浪人を経験していたので、大学4年間で1年間のビハインド分を埋め合わせるだけの経験をしなくてはならないと思い、学生時代を過ごしていました。

 

大学1年生の間はクラブチームでのサッカーの練習で忙しくしていましたが、2年生の夏からコンサル企業で長期インターンを始め、そこで得たネットワークをもとに多くの社会人と接点を持つことができました。

 

そのおかげで、将来やりたいことや自分の理想像の解像度はかなり上がりましたが、特定のドメインで、どんな商材を扱い、誰を幸せにしたいのかまでは明確にならなかったんですね。

 

なので、いったんモデルケースを知るためにコンサルに就職しようと思うようになり、3年の秋にひと通り外資コンサルから内定をいただいて、決意しようとしていました。

 

でもふと立ち止まったときに、本当に自分がやりたいことは、事業を創って世の中に価値を生み出すことだったと気付いたんですね。

 

それなのに、いきなり戦略コンサルから入ってモデルケースをたくさん知るっていうキャリアを歩むと、なんだか頭でっかちになりそうだなと。

 

そこで、内定をもらった時点ですぐにコンサルは全て辞退して、事業会社に進むという意思決定を下しました。

 

-コンサルを辞退して事業会社に就職したんですね。では、内定先企業ではどんな仕事をされていたのですか?

 

:内定者時代から新規事業の立ち上げを1年半ほど行ない、その後、社内人事として3年半ほど担当し、人事責任者も経験しました。

 

社長交代のタイミングで別のITベンチャーに転職し、現在の企業では人事責任者と営業サイドで採用コンサルを担当しています。

 

多種多様な内定辞退の形

-林さんは人事としての経験が長いと思いますが、内定辞退に悩まされた経験はありますか?

 

:もちろんあります。

 

入社してもらうために、あらゆる手を尽くして学生のエンゲージメントを高めようと奮闘するも、結局内定を辞退されてしまうという時に、人事としてのむなしさや侘しさを感じます(笑)

 

具体的なケースでいうと、10月の内定式後の辞退には悩まされますね。

 

内定式には様々なカラーの内定者が一堂に会するので、グルーピングであったりコンテンツであったりと、人事としてはかなり工夫しているところではあります。

 

ただ中にはそれ次第で、「他の内定者と自分は合わないんじゃないか」と懸念を抱く学生も少なくはなく、内定式直後に「やはり他社に行きます」と辞退されてしまうケースがありました。

 

おそらく、内定式以前にもぼんやりとした不安を感じていて、最終的に内定式がトリガーとなり辞退に至るという具合だと推測しています。

 

こういうケースは一般的に多いのではないでしょうか。

 

あとは、内定を出した後、安堵感から人事が内定後のフォローを怠ってしまい、関係値が継続せずに、知らぬ間に心が離れてしまい辞退されてしまうケースも多いでしょうね。

 

承諾後もしっかりと個別で継続的にフォローし続けることをスタンダードに採用活動を行っている会社は案外少ないなという印象ではあるので。

 

-なるほど。他にはどんなパターンがありますか?

 

:芋づる方式で内定者が複数人辞退することもありましたね。

 

もともと内定者の紹介で選考に参加し、そのまま内定を承諾した学生の方がいらしたんですが、紹介してくれた内定者から「やっぱり辞退します」と連絡があった直後、そのままもう一人の内定者にも辞退されるといったことがありました。

 

内定者同士で、選考中の企業の情報や、現在の内定先に対して感じていることは共有される場合も多いので、一人が内定辞退という意思決定に振り切ると、周囲にその影響が伝播することは大いにあり得ると思います。

 

他にも、他社にどれくらい当てはまるか分かりませんが、役員と反りが合わずに辞退というケースもありました。

 

-それは具体的にどういう場面ですか?

 

:基本的に選考で学生が出会う役員の方って、人事がその学生と相性の良さそうな役員を恣意的に選んでいるので、企業の魅力付けが上手くいくことが多いんですね。

 

ある時、色んな部署の役員が集まる飲み会に内定者も参加する機会を設けたのですが、そこで接した役員と価値観が合わないということを理由に、内定辞退されたことがありました。

 

関係値次第では、辞退理由は教えてくれないことも

-内定辞退といっても、いろんなパターンが存在するんですね。学生側の辞退の理由としてはどんなものが多いんですか?

 

:学生との関係値にもよりますが、内定を出した後の学生へのフォローが少ない企業の場合だと、基本的に学生からは辞退連絡のみで、理由はありません。

 

理由については追って聞こうとしますが、関係値次第ではそれが不可能なこともあります。

 

関係値が比較的高い場合の辞退理由として多いのは、「他社からも内定が出て熟考した結果、辞退させていただきます」という旨の内容ですね。

 

またベンチャー企業等では、学生本人の意向は固いのに親が理由で内定辞退というケースも見受けられます。

 

親御さんが「大企業こそが正義。生涯安泰!」というお考えの家庭などIT業界に明るくないご家庭の場合、やはり規模も小さく名前も売れていないような会社に就職することに不安を覚えるんだと思います。

 

以前勤めていた企業でも、このケースに遭遇したのですが、その時は親御さんのもとに内定者の学生と一緒に行ったこともありましたね(笑)

 

あと、非常にレアなケースですが、一部優秀層は「起業」を理由に辞退する場合もあります。

内定辞退が企業にとって問題である2つの理由

-基本的には他社内定を理由に辞退する学生が多いものの、一部起業や家庭の事情で辞退するケースがあるんですね。では、そんな内定辞退ですが、そもそもなぜ内定辞退は企業にとって問題なのでしょうか?

 

:そうですね。

 

まず、内定承諾者を1人出すまでに企業人事がどれほどの努力をしているかをファクトベースで知っておくことは学生の方にとっても損はないと思います。

 

具体的な数字でいうと、あくまで一例ですが、1名の内定承諾のために、2名に内定を出し、2名に内定を出すために3名を社長面接に繋ぎ、社長面接に繋ぐために5名を役員面接に繋ぎ、役員面接に繋ぐために10名のマネージャー面接を設定し、マネージャー面接を設定するために20名の人事面接が必要で、人事面接に繋ぐためにはイベントで300名の学生に接触しなければいけません。

 

つまり、1人の内定承諾者を出すためには、60名規模のイベントを5回開催する必要があるわけです。

 

したがって、5回のイベント開催にかかる費用であったり、面接を実施する人事やマネージャー、役員や社長の時間的コスト・工数のインパクトは計り知れません。

 

一般的に企業の新卒採用において、1人あたりの採用コストは80〜200万円と言われています。

 

こういった数字などのファクトベースの上に、採用にかける想いや一学生への感情が乗っかってくるからこそ、内定辞退は人事にとって痛いんですよね。

 

-そんなに費用がかかっているんですね!では内定辞退が問題なのは、主にコスト的な理由が大きいということですか?

 

:もう1つ理由があります。

 

それは、内定辞退のタイミング次第では、採用計画においてリカバリーが効かなくなる場合があるからです。

 

採用戦略は、経営戦略の中における事業戦略、事業戦略の中における人事戦略、人事戦略の中における採用戦略、採用戦略における新卒採用戦略という具合に、すべて経営から紐付いたロジックで計画が綿密に立てられているんですね。

 

なので、新卒採用戦略上の数値やKPI(重要業績評価指数)が一つでも崩れると、目標数値が崩れるということになります。

 

そういう意味で、辞退のタイミングによっては採用戦略が大きく変わってしまいます。

 

-内定辞退を伝えるタイミングとしてはいつぐらいまでが目安になりますか?

 

:10月の内定式までだと思いますね。

 

それ以降は、そもそも就活生の母数が担保できなくなり、採用活動が格段に難しくなってしまうので。

内定辞退の際に、学生が意識しておくべきこととは?

-最後に、もし万が一内定辞退をしなくてはならない場合、抑えてほしいポイントがあれば、ぜひ就活生に向けてアドバイスをお願いします!

 

:これは企業にもよるし個人にもよりますが、僕個人としては、「自分の将来と内定先に少しでも心の乖離ができた時点ですぐに教えてほしい」という思いが前提としてあります。

 

こちらとしても、学生の方の人生のためを思って率直に本音で話したいと考えているので、辞退の可能性が出てきた時点ですぐに伝えてほしいなと。

 

伝え方としては、「少し迷いが出てきたのでぜひ一度お会いしたいです」という正直なスタンスで全く問題ないので。

 

あと、あわよくば辞退の理由も教えてほしいですね(笑)

 

その意見を受け止めて来期の採用戦略に活かしたいと考えていますから。

 

色々伝えたいことはありますが、全てに通じるのはとにかく「誠実に」ということに尽きます。

 

誠実であることは、最終的に自分にとってプラスに働くものだと思っていて、僕自身、未だに内定辞退されたものの仲の良い方はいますし、そういう関係はずっと続いていくものだと思います。

 

次の転職先で同じになるかもしれないし、クライアントとして営業先で出会うかもしれない。

 

なので誠実でいればこそ、その後の人生上で何かしらの豊かさをもたらす機会はあると思うので、一人の人間として誠実に接するということが一番大事なんじゃないですかね。

 

中でも「就活」という、人生においてとりわけ重要な意思決定において、一度でも本気になった相手ですから(笑)

 

内定辞退という形で切れてしまう縁もあるとは思いますが、一方で続いていく縁も間違いなくあるので、そこは学生の方にも(企業人事の方にも)強く意識しておいてほしいなと思います。

 

-内定辞退は難しい問題ですが、企業も学生もお互いにとってベストな着地点を見つけられるといいですね。林さん、ありがとうございました!

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